会社勤めを辞めワイン用ブドウ栽培農家に。将来は自分のワイナリーも持ちたい/中村 大祐(なかむら だいすけ)さん《ライフシフターNo.012》

プロフィール

・トラストアンドアソシエイツ株式会社 代表取締役

長野県在住。50歳。妻、大学生、高校生、中学生の5人家族。SE(システムエンジニア)を約10年、社内の人材育成の仕事を10年と、二十数年間会社勤めをしていたが退職を決意。ワイン用ブドウ栽培農家となる。ワイン用ブドウを栽培し、近隣のワイナリーに醸造を委託。ワインを自社ブランドで販売している。
座右の銘:大小様々な選択の中で頭に浮かぶ言葉は「迷ったらやめない」「now or never(今でなければまたと機会はない)」
http://trustassociates.co.jp/

現在のライフスタイルになる前、二十数年間、会社勤めをしていました。最初の十年間はSE(システムエンジニア)を、次の十年間は社内の人材育成の仕事に携わっていました。多忙な毎日で、家を早朝に出て、帰宅すると寝るだけ。時間や場所に関係なくメールを読み書きしたり、平日の負担を減らすつもりで休日にも仕事をしていました。でも、そんなことも逆に自らの忙しさを助長していたのかも知れません。自分がメールを出せば相手に返信を促すことになってしまいますからね。当時は時間的にまったく余裕のない生活をしていました。

やらなかった後悔ではなく、やって後悔する方を選ぼう

随分と前から、いつかは都会を離れ、自然豊かなところで暮らしてみたいという憧れのようなものを持っていました。そんな中、仕事が忙しくなり、それから抜け出したいといった逃避的な願望が膨らんできたと同時に、仕事人生が残り半分という時期を迎え、定年退職した後の人生を含めて、どんな生き方があるのだろうかと考えるようになったのです。

定年まで勤め上げれば、経済的には困らない生活が待っているかも知れない。でも、死を迎えるときに後悔しない生き方ってなんだろうか、定年退職後の長い人生をどのように過ごすのだろうかと考えると、それまでの延長線上の生活に明るい将来を見いだせずにいました。ちょうどその頃、長野県でワイナリーを目指す人を対象にした研修機関(ワインアカデミー)が設立されるとことを知ったのです。

ワインは昔から好きでしたが、薀蓄を語れるほど詳しくもなく、ワイナリー経営というものがどういうものかを知っていたわけでもありません。ただ純粋に、畑で身体を動かし汗水垂らして働き、夕陽を見ながらワインを飲む……、自分で育てた野菜で作った料理をワインと一緒に愉しむ……、そういう生活に憧れのようなものを抱いていました。また、70歳くらいまで働くことを考えると、当時会社員生活がちょうど半分くらい経過したところでした。長い職業人生(キャリア)を考えると、少しくらい休みをとって休養しても良いのではないか。他方、ワイン造りについては何も知らない私が、ワイン用ブドウ栽培に情熱を傾けられるだろうか……。熟慮に熟慮を重ねました。最終的には、下した決断が結果的に失敗だったとしても、人生の最期を迎えるとき、やらなかった後悔ではなく、やって後悔する方を選ぼうと思ったのです。

そこで、自ら「人生の夏休み」と称して会社を退職し、一年間ワインアカデミーに通いながらワイナリーを目指すことについて考えてみることにしました。そこでの学び、そこでの出会いが、ライフシフトのきっかけとなりました。

ワインアカデミーのカリキュラムが半分を迎えるころ、「人生の夏休み」の後のことを考えていました。学べば学ぶほどワイナリーへの道は遠く険しいことがわかってきていたので、当初から考えていた会社員生活に戻ることも現実的かつ堅実な選択肢の一つでした。でも、もし今やらなかったらいつか再挑戦するだろうか。そう考えた時に頭をよぎった言葉が「now or never」。今でなければまたと機会はない。そう思って挑戦する決意を固めたのです。そしてそんなタイミングで、ワイン用ブドウの畑を譲っていただけるという話をご紹介頂き、ブドウ栽培農家になるという「人生の決断」をしました。

周りの様々な人がライフシフトのサポートに

「人生の夏休み」をとるにあたって、家族にはあまり相談せず、強引に進めたというか、自分の判断・決心に従ってもらったというのが実体です。ですので、その頃の妻の胸の内を推し量ると、怒り、不安、あきらめ、そういったネガティブな感情が中心だったと思います。不安定かつ先の見えない生活のために心配をさせてしまっているということについて、申し訳なく思っています。私の「人生の決断」に対する結果とそこへ行くプロセスにおいて生活の質を上げることが、家族に理解してもらうために、これから「するべきこと」だと思っています。

今回のライフシフトは、両親や姉妹家族、そして親戚にも支えられています。こちらに購入した家は長い間使われておらず、ひどい在り様でした。その修繕をしてくれたのは、遠方から駆けつけてくれた叔父やいとこでした。叔母も家の掃除をしたり、新しい生活で使いそうなものを持ってきてくれたり。いい歳して叔父叔母にまで助けてもらうというのも何だかなぁと思いながらも、ありがたくご厚意に甘えています。家族だけではなく、周りの人のサポートもライフシフトの大きな力になっています。

「熟慮と行動」がライフシフトのカギ

会社勤めを辞め、ライフシフトした今、何もかもが変わりました。仕事の内容、生活スタイル、家族との時間、金銭面。そのひとつひとつが大きく変化しましたが、本質的に変わったことは、自分の人生に対する責任を自分が負うという当たり前のことについて、その重さをより強く実感するようになったということでしょうか。会社で働き定期的に給料をもらえる身分から、自分次第で生活が成り立たなくなる可能性もある世界に飛び込んだということ。会社勤めをしていたときの制約とは全く異質のそれを抱えて生きているという事実が最大の変化だと思います。

刺激的な日々で充実しているとは言え、毎日明るく楽しい生活がスタートしたわけではありません。全く未知の世界に飛び込んだわけですから、いろいろな意味で勉強の日々ですし、苦難の連続です。それまで疎かになってしまっていた家族との時間を充実させたいと思って退職したにも関わらず、現在は単身赴任という残念な現実もあります。正直つらい生活になっているのですが、たくさんの方から支えていただきながら、なんとかやってきました。

ファーストヴィンテージのラベルは、思いもかけない形で実現しました。そろそろ考えようと思っていたころに出会った方が、ご厚意で原案を作ってくださったのです。それは私以上に私の想いを汲んだ素晴らしいもので、ほぼその原案のまま実際のラベルになりました。

東京から何度も足を運んで庭にピザ窯を作ってくださる方もいます。私にとってそれは単にピザを焼くための窯ではなく、精神的支えのシンボルのような存在です。
近くで葡萄畑をやっておられる先輩方は、私にとって本当にありがたい存在です。ご自身が経験したこと、ご苦労されたことをいつも丁寧に教えてくださいます。
これらは一例に過ぎませんが、ライフシフトした結果、多くの方々に支えられて生きているということを実感します。これもライフシフトによる変化であり、ライフシフトして得られた喜びのようなものだと思います。

そんな私の目標は、いつか、自分のワイナリーを持つこと。それには品質の高い葡萄をつくること、しかも一定の収量が必要となります。葡萄栽培の経験を積みながら少しずつ畑を拡大するため、十年、二十年といった時間軸の世界です。葡萄栽培の技術を身につけながら、いろいろな意味で持ちこたえることが当面の目標です。

また、葡萄畑で作業をしたり、食事やワインを愉しんだりといった活動を、価値観の近い方々と一緒に行いたいと考え、「carraria associates(カラリア アソシエイツ)」という会員制組織を立ち上げました。これをしっかり運営することも目標の一つです。

ライフシフトに際し重要なことは「熟慮と行動」だと思います。基本的には行動あるのみ。やってみなければわからないと言いたい。まだ自分の道が拓けているわけではないので、偉そうなことを言える立場ではありませんが、今のところはやってみると道は拓けてくるという実感があります。一方で、その前には熟慮が必要だとも思います。
熟慮したの上での思い切った行動で、未来は切り開かれてゆくはずです。