「正しい知識の普及でケガを減らしたい」。医師の傍らで一般社団法人を立ち上げ、「スポーツ医学検定」を開催/大関信武さん(医師・日本スポーツ医学検定機構代表理事/ライフシフト年齢39歳)

プロフィール

大関信武さん(ライフシフターNO.50)
・整形外科医師(医学博士)
・東京医科歯科大学再生医療研究センター、スポーツ医学診療センター
・一般社団法人日本スポーツ医学検定機構 代表理事

東京都在住、42歳。半月板や軟骨の再生医療を患者さんに届ける現場で、整形外科医としての仕事をこなす一方で、39歳のときに「一般社団法人日本スポーツ医学検定機構」を設立。一般の人を対象にした身体のことやスポーツによるケガの知識を問う「スポーツ医学検定」を創設し、開催。その背景には、かねてより病院やスポーツ現場での診療を行いながら、留学や自身の関心から受検した各種検定試験の経験を通して得た「学ぶ機会を創出することの必要性」への気付きがある。現職を続けながら「プラスα」で新しいことに取り組むことには、肉体的にも精神的にも想像以上の大変さを伴うが、「ライフシフト」の新しい形としての可能性を備えている。現在も大学病院で整形外科医としての勤務を続けながら、同検定の全国展開を目指して尽力している。妻・長女(11歳)・次女(9歳)・長男(5歳)の5人家族。

影響を受けた本:『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(西野亮廣)
影響を受けた映画:「さとにきたらええやん」

https://spomed.or.jp

 

整形外科医として勤務しながら、「医師の道」を模索してきた日々

私は約15年間、整形外科医として働いてきました。その間、病院やスポーツ現場での診療を一貫して行ってきましたが、それに加えて再生医療の基礎研究に従事したり、研究員という立場で英国に留学したり…1つのことだけを専門的に突き進めてきたというよりは、整形外科医としての職務を継続しながらも、医師としてどのような道を選択するかということを常に考えてきました。

現在、私が大学で携わっているのは再生医療です。失った構造や機能を取り戻すための医療は、最先端の科学がもたらす医療と言えます。現場で仕事をしていると、これから先の10年間で再生医療が社会に与える影響はとても大きいだろう、と感じています。

楽しく知識を学ぶことができる「スポーツ医学検定」の創設を決意

再生医療の一方で、2020年東京オリンピックを2年後に控えた今、スポーツ医学に対する社会的関心も高まってきています。スポーツ選手の場合、ケガをしてしまったときの対処法や復帰までのリハビリテーションのプロセスがとても大切です。あわせて、どのようにケガを予防するか、ということも重要です。そして、予防法、対処法などについて、スポーツ選手自身はもちろんのこと、指導者も、医師・理学療法士・アスレティックトレーナーと共通言語を持って、向き合っていくことが最重要と言えます。成長期の選手であれば、保護者にもある程度の知識があった方がいいですしね。しかしながら、そのようなことを「学ぶ機会」は、これまでありませんでした。医療者の側面からみると、スポーツ医学を専門的に追及する人はいても、それを普及させるという視点は十分ではありませんでした。

英国留学を終えて日本に戻ったとき、たまたま目に留まった「ウイスキー検定」と「日本さかな検定」を受検しました。ただ単にお酒やお鮨が好きだったという理由からなのですが(笑)、でもこれらの検定受験を通して「楽しく知識を深める」という経験がとても印象に残りました。特に、日本さかな検定の会場で子どもから大人まで幅広い年齢層が受検している様子を見て、「検定」というツールが知識を広める確かな手段になる、と直感的に感じました。メディカル関係者だけでなく、一般の人びとにも身体やケガの知識を普及させようとした体系的な取り組みはなく、「学ぶ機会」を作ることの必要性を感じ、誰もが受検に挑戦できる「スポーツ医学検定」の創設を決意しました。

前例のない取り組みに対する不安も、周囲の応援で解消

「一般社団法人日本スポーツ医学検定機構」の創設を決意したのは、39歳のとき。東京医科歯科大学再生医療研究センターで半月板や軟骨の再生医療を患者さんに届けるための仕事をメインで行なっている時期でした。

一般社団法人を設立して「スポーツ医学検定」を作る、ということ自体も新しい試みですが、私の場合、整形外科医としての勤務を続けながら、という点でも新しい挑戦でした。新しい道を切り拓いていくということ自体はとてもワクワクすることですが、医学の世界において「39歳」というのはまだ若輩。若輩者の私が「代表」として「スポーツ医学検定」を創設することを快く思わない人がいるかもしれない、という漠然とした不安がありました。でも実際にそのような反応はなく、検定創設のことを色々な人に伝えたとき、「これは大切ですね」「面白そうだし受けてみたい」「ぜひ手伝いますよ」といったポジティブなコメントをいただくことがほとんどでした。スポーツ医学の大御所と言われる先生方にお伝えしたときも応援の言葉をかけていただき、様々なアドバイスを頂戴しました。周りからの反応を気にしない性格であれば不安を感じることもなく突き進めたのかもしれませんね(笑)。でも、何かを実行に移すとき、自信と不安のバランスも大切かなと感じています。

時間のマネジメント術は、現在進行形で模索中

個人的なところでは、時間をマネジメントできるかどうかがとても不安でした。家族との時間を切り詰めなければならなくなることは目に見えていました。独身だったら時間を気にすることなく、もっと自分のエフォートをスポーツ医学検定に費やせるのではないか、と考えたこともあります。もっとも、妻に「一般社団法人を設立して、スポーツ医学検定を作る」と伝えたときも、最初は本気にしてもらえませんでした(笑)。普通に医師としての仕事だけをしてください、と私が妻なら思うでしょうね(笑)。今の私の忙しさについて、妻は理解してくれていますが、私はそれに甘えてはいけないと思っています。家族との時間が少ないことを「理解してくれているから大丈夫」と考えてはいけません。家族との時間を作るためにできることがもっとあるはずです。

そういう意味では、時間のマネジメント方法は、今まさに手探りで良い方法を探しているところです。現状、時間管理がうまくできているとは言えず、いつもやることに追われて切羽詰まっています。本当はこのような生活こそライフシフトが必要なのかもしれませんが、今は突っ走れるところまで走るべき時期だと考えています。

「スポーツ医学検定」を全国へ。今できることを、精一杯やっていく

私の今の目標は、「スポーツ医学検定」を日本全国に普及させることです。次の第4回検定は東京、横浜、前橋、大阪、福岡の5会場で受検可能です。様々な立場の方、スポーツに携わるすべての方に知ってもらい、できるだけ多くの人に受検してもらいたいですね。「検定」というツールは、日本だからこそ定着する独自の文化だと感じています。スポーツに携わる人みんなが身体やケガについての知識を学ぶ、そしてケガを減らしてパフォーマンスを上げる、それが生涯を通じてスポーツを楽しむ人を増やす、という循環ができればいいですね。もちろん、日本全体として競技力が向上することにつながることを期待しています。

とは言え、日常の大学での業務のみでなく、検定の運営で慌ただしい毎日を送っている私ですので、上手く生活を回せているとは言えません(笑)。やることリストの項目が増えて、なかなか減らすことができず、「自分は今日一日何をやっていたんだろう」と思うことも多々あります。疲れ果てて、床でそのまま寝てしまうこともあります(笑)。先のビジョンを持ちつつも、今の私には、目の前にある課題を1つ1つこなしていくことが精一杯です。「人生100年時代」とは言いますが、個人的には1つ1つの積み重ねの先に、小さな目標の達成や中くらいの目標の達成があり、人生として達成感があればいいと考えています。

私の場合は、何かをやめて新しいことを始めたわけではなく、現状にプラスアルファする形で、やりたいことを始めました。ライフシフトを「自分軸で人生を選択する」と定義すると、私の場合そこまで大きなライフシフトではないかもしれませんが、それまでの積み重ねの上に、選択できる状況にありました。つまり、それまでに積み重ねてきたものがライフシフトにおいても必ず重要だと思います。そういう意味では、日々、自分自身に「できること」を精一杯やっていくことが大切だと感じます。

「原点」。これは私の好きな言葉です。人生には様々な節目があり、その時々に原点があります。人生にはうまくいくこと・迷うこと・つまずくことがありますが、ふとした時にどこかの「原点」に再度立ち返ることで、新たな一歩を踏み出せると思います。